「遊び」の中で人間性を育み、未来の社会を創る。秋津児童館育成室・船橋紘二施設長が語る、「絶対に諦めない」学童保育のリアルと想い
学童保育は、子どもたちにとってどのような場所であるべきでしょうか。船橋施設長は、学校でも家庭でもない「第三の場所」だといいます。
ライクキッズに入社して17年。27歳でこの世界に飛び込んで以来、学童保育一筋で子どもたちと正面から向き合ってきた船橋施設長は、時に厳しく、時に優しく、決して子どもの成長を諦めることはありません。今年度から秋津児童館育成室に着任し、新しい風を吹き込みながら施設の基盤を丁寧に築いてきた手腕の根底には、一体どのような想いが秘められているのでしょうか。子どもたち、そして保護者様と日々どのように関わり、どんな未来を描いているのか。船橋施設長の生の声に迫りました。
キャンプのアルバイトで知った「子どもと関わる面白さ」17年間の学童保育への道
現在47歳となる船橋施設長が、ライクキッズに入社したのは30歳の時でした。配属された児童館内の学童クラブで主任を務めて以来、高田馬場、中野、立川と複数の施設で経験を積み重ね、今年度から秋津児童館育成室の施設長に就任しました。そもそも、彼が子どもと関わる仕事を志した原点はどこにあったのでしょうか。
「きっかけは、学生時代に小学生をキャンプに連れて行くアルバイトをしたことでした。それまで子どもには全く興味がなかったんですが、色々なことをやってみようと思って参加してみたら、『子どもたちと関わるのって、こんなに面白いんだな!』と衝撃を受けたんです」
その発見が、船橋施設長の人生の舵を大きく切ることになります。子どもに寄り添う仕事がしたいと考えた時、真っ先に思い浮かんだのは「遊びの中で関わりたい」という強い想いでした。
「勉強を教える学校の先生というよりは、遊びの中で子どもと深く関わりたいと思ったんです。それで保育士の資格を取りました。児童養護施設での勤務も少しだけ経験しましたが、やっぱり私が一番しっくり来たのは、学童保育の現場でした」
彼が「しっくり来た」と語るその理由は、学童保育という環境が持つ特異性にあります。
「日々の『遊び』の中でこそ、子どもたちに様々なことを伝えられるんです。もちろん宿題を教えたりもしますが、それ以上に、社会性や協調性といった、人間として生きていく上で根幹になる部分を、遊びを通してずっと教えていける。それが学童保育の最大の魅力だと感じています」
遊びの中で教える「ルール」と「思いやり」。社会を生き抜くベースを育む。
遊びの中で社会性や協調性を教える。それは口で言うほど簡単なことではありません。船橋施設長が日々の関わりの中で、子どもたちに最も伝わってほしいと願っているのは「人の気持ちを考えられる人になってほしい」ということです。
「もちろん、一人で遊ぶのが好きな子もいます。無理やり集団の遊びに入れようとは思いません。ただ、社会に出ていく上で、必ず集団というものを経験しなければならない場面が出てきます。『たまには一緒に遊ぼうね』と声をかけたりしながら、人と関わることの大切さを教えています」
そして、子どもたちが真っ直ぐに社会へ羽ばたいていくために、船橋施設長は「ルール」の重要性を繰り返し説き続けます。
「子どもたちって、結構『自由が欲しい!』って言うんですよ。でも私は『いや、自由だよ。基本的なルールだけ守っていれば、基本は自由でしょ? 難しいルールなんてないよね?』と返します。社会に出たら、ルールが全てじゃないですか。ルールがないところなんてないんだよ、ということは今からしっかり伝えています。道路を歩く時だって、みんなルールを知っていて守っているから安全に歩ける。ルールがあって、それを基本守っているからこそ、本当の『自由』があって、だからこそ毎日が楽しいんだよって」
何でもありで、ルールがない空間があったとして、それは本当に楽しいのか。そう子どもたちに問いかけると、子どもたちも「つまらない」「嫌だ」と気づくといいます。
「人は一人では生きていけません。必ず誰かしらの助けが必要になります。自分一人で何かを成し遂げることも大事ですが、常に人の気持ちを考えて行動しないと、結局は自分も同じことをされて、悲しむのは自分なんだよと伝えています。人のことを思いやれる人になること。それが、人としてこの社会で生きていくための本当に重要な基礎であり、ベースなんです」
基盤の立て直しと新たなルーティン。子どもの成長を「絶対に諦めない」理由と覚悟
そんな確固たる信念を持つ船橋施設長ですが、今年度、秋津児童館育成室に着任した当初は、施設全体のまとまりに少し課題を感じる状況だったそうです。
「着任してまず感じたのは、子どもたちを優しく、かつビシッと導くための環境が少し足りていないなということでした。安全で安心な居場所を作っていくために、根本的な立て直しが必要だと感じました」
当時の施設には、全体で落ち着いて過ごすメリハリのある時間が不足していました。船橋施設長は、まず自分がその軸にならなければならないと覚悟を決めました。
「手始めに、1日に1回ないし2回は、必ず全員が集まる時間を作ることをルーティン化しました。それまでは、帰る前に集まっても、なんとなくわちゃわちゃしたまま帰っていくような状況だったんです。それじゃあ、いつか事故が起きてしまう。安心安全を謳っている事業として、生活のリズムと秩序をしっかり作っていかなければいけないと思いました」
おやつの時間と帰りの会の1日2回、必ず全員で集まる。座ってビシッとさせることだけが目的ではありません。「たった5分でもいいから、ちゃんと人の話を聞ける子になってほしい」。その一心からの行動でした。
「最初は少し時間がかかりましたよ(笑)。でも、徐々に落ち着いて話を聞けるようになっていきました。以前は少し落ち着きがなかった時間帯も、『お互いに気持ちよく過ごすためにはどうしたらいいかな?』と問いかけながら進めていきました。今では子どもたちも新しい流れに乗ってきて、『人として何が良いことで、何が悪いことか』という分別がしっかりつくようになってきました。もちろん、元気があり余ってしまうこともありますが、声をかければ『あ、そうだった』と自分で気づいてくれるようになりましたね
時間をかけて生活のリズムと秩序を取り戻していく。なぜ、そこまでエネルギーを注ぐことができるのでしょうか。そこには、船橋施設長の保育に対する並々ならぬ覚悟がありました。
「私がここで手を抜いたり、指導を諦めたりしたら、その子の成長に関わらなくなってしまうことになります。それはもう『諦め』です。子どもと関わるこの仕事をしている以上、子どもの成長を諦めるという行為は、絶対にやってはいけないことだと思っています。だからこそ、手は抜けないんです」
優しさと厳しさ。その両方を持ち合わせ、メリハリをつけて子どもに接します。厳しさだけでも子どもの心は離れてしまいます。「ダメなものはダメ」としっかり伝えた後は、すぐに切り替えて笑顔を見せる。その真摯な向き合い方が、子どもたちの心を少しずつ温め、人間としての成長へと導いているのです。
保護者様とのすれ違いから、深い信頼へ。家族の幸せを願うコミュニケーション
学童保育の現場において、対応が求められるのは子どもたちだけではありません。保護者様とのコミュニケーションも、施設長にとって極めて重要な職務です。これまで大きなトラブルなく施設運営を行ってきた船橋施設長でしたが、この施設に着任して間もない頃、保護者様との関わりにおいて「とても考えさせられた」と振り返る出来事がありました。
「ある時、施設でのちょっとした出来事を巡って、保護者様と見解の相違が生じたことがありました。私としてはお子さんの状況を正しく把握したいという思いからの確認だったのですが、その時のアプローチがお子さんを少し不安にさせてしまい、後日、保護者様から強いご心配と戸惑いのお声をいただくことになってしまったのです」
保護者様としては、お子さんを深く信頼し、大切に想うからこその強い感情だったのでしょう。その時はお互いの想いがうまく噛み合わず、すぐには解決の糸口を見出すのが難しい状況だったといいます。
しかし、物語はそこで終わりません。その後、思いがけない出来事が関係を修復するきっかけとなりました。
「しばらくして、そのご家庭で急なトラブルがあり、保護者様がお子さんの日常のサポートを行うのが一時的に難しい状況に直面されました。大変お困りのご様子だったので、学童としてできる限りの手助けをご提案したんです。初めは『慣れないことをさせてしまうのは心配です』と遠慮されていましたが、『私たちでよければ、一緒にお手伝いしますから大丈夫ですよ』とお伝えし、お子さんが安心して過ごせるよう寄り添う対応をとらせていただきました」
かつて見解の相違からすれ違ってしまった保護者様からのSOS。船橋施設長は、過去のやり取りにとらわれることなく、目の前のお子さんとご家庭のピンチに迷わず手を差し伸べました。
「後日、状況が落ち着かれた保護者様から、ものすごく感謝していただきました。以前は少し難しい空気があったのも事実ですが、この出来事をきっかけに、結果としてとても良好な信頼関係を築くことができたんです。保護者様の安堵された笑顔を拝見して、大人同士であっても、歩み寄りや関わり方次第で関係性はいくらでも温かいものに変わっていくんだなと、深く実感しました」
子どもたちは時に、学童というリラックスした空間だからこそ、お家での些細な不満や甘えをポロリとこぼすこともあるといいます。船橋施設長は、そうした子どもの小さなサインを受け止めながら、保護者様との関係性を慎重に紡いでいきます。
「私たちが子どもたちの言葉をそのまま受け取って、保護者様を否定するようなことは絶対にありません。私たちの願いは、ご家庭の中が少しでも良くなり、皆さんが幸せでいてくださること。そのために、学童としてどのようなコミュニケーションを取るべきか、お子さんと保護者様、両方の立場に立ちながら常に考えています」
お友達との間でうまくいかないことが続き、保護者様が対応に悩まれているようなケースでも、船橋施設長は決して色眼鏡で見ることなく、どの子にも平等に接します。
「何かあればすぐに対応し、『学童ではこういうアプローチで成長をサポートしていますよ』と、保護者様と細やかに連携をとっていきます。そうすると、『学童でそこまで寄り添ってくれるんですね、いつもありがとうございます』と感謝のお言葉をいただけるんです。学校の先生も一生懸命ですが、多人数を一人で見るには限界もあります。その点、学童は複数人の指導員で手厚く見守ることができる。勉強以外の『人間性を育む』という部分では、私たちは重要な役割を担っていると自負しています」
リラックスできる場所で見極める「人間性」自覚するまで諦めない
学童保育は、子どもたちにとってどのような場所であるべきでしょうか。船橋施設長は、学校でも家庭でもない「第三の場所」だといいます。
「ここは家庭ではありません。でも、学校とも家とも違う、リラックスできる場所であってほしいんです。だからこそ、自由の中にメリハリを持ち、優しさと厳しさの中で人間性を育成していくことを大切にしています」
リラックスした「遊び」の空間だからこそ、子どもの本当の姿が浮き彫りになります。
「遊びの中では、人間性が本当に培われるし、よく表れます。一人一人の特徴が分かるんです」
その姿を観察し、人間性が育っていくように、船橋施設長は時にチクッと注意を与えます。しかし、子どもはすぐには気づきません。
「本人が自覚して直るまでには時間がかかります。だから、粘るんです。絶対に諦めません。人間性のフィルターで見て、それに反している時は、ちゃんと伝えます。そして、いつしか私がそのことについて注意をしなくなった時……『あ、そういえば最近あれ注意してないな』とふと思い出した時が、子どもが自分で気づき、成長した証なんです。毎日見ていると気づかないですが、そのふとした瞬間に、密かに嬉しさを噛み締めています。何かをしてくれて嬉しいというより、子どもが成長したと感じる時の嬉しさですね」
未来の社会を創る子どもたちへ。そして、これから学童保育を目指す仲間へ
インタビューの終盤、船橋施設長にこの仕事の醍醐味について改めて尋ねると、少し熱を帯びた声でこう答えてくれました。
「やはり、子どもの成長に関われるこの仕事に、私はものすごいやりがいを見出しています。子どもが期待に応えて成長していく瞬間、それがたまらなくて辞められないんです
子どもの人間性が育つことで、周りの子どもも変わり、保護者様も変わり、ひいては世の中が変わっていく。船橋施設長は、目の前の子どもたちの先に、日本の未来を見据えています。
「少し大げさかもしれませんが、本気で日本の未来を心配しているんです。『こんなんでいいの?』『君たちがいずれ大人になった時、とんでもない社会になっていたらどうするの?』って。世界や日本をすぐに変えようとまでは思っていませんが、せめて自分が関わった子たちには、私が伝えたい言葉、大人になる上で役立つようなことを、一つでも多く伝えていきたい。それが私の使命感です。私との思い出なんて忘れてもらって構いません。ただ、人間として大切にしてほしいことだけは、心に残してほしいんです」
最後に、これから学童保育の指導員を目指す人たちへのメッセージをもらいました。
「私はこの仕事が天職だと思っていますし、好きな仕事をしてお金をもらえていることは幸せでしかありません。これからこの仕事を目指す人には、ただ『子どもが好き』というだけでなく、『子どもにどういう大人になってほしいか』というビジョンを持っている人と一緒に働きたいですね。子どもが好きなんていうのは大前提ですから。未経験でも、ぼんやりとでもいいので、自分なりのビジョンや夢を持ち、子どもたちが良い大人になれるように一緒に考え、化学反応を起こせるような人と、この『最高な仕事』をやっていきたいです」
「子どもが変わると、世の中が変わっていく」
インタビュアーが語ったその言葉に、船橋施設長は「本当にそうですね」と深く頷きました。
決して子どもの可能性を見限らず、人間性が育つまで粘り強く、諦めずに向き合い続ける。秋津児童館育成室には、まるで実家のように温かく、時に親のように本気で叱ってくれる大人がいます。ライクキッズが掲げる「あなたでよかった、ありがとう」の気持ちは、今日も船橋施設長の手によって、子どもたちと保護者様の心に確かに通い合っています。

